『大分・別府ミステリー案内歪んだ竹灯篭』スピンオフ小説
導きの翡翠(みちびきのかわせみ)
大好評配信中!



ミステリー案内シリーズに登場する人気キャラクターの一人、正義のルポライター「西沢紘一」の視点で描かれた短編小説。
歪んだ竹灯篭内でケンとセンパイが捜査する事件の裏での出来事を『霊媒探偵アーネスト』シリーズ(講談社)の著者でミステリー作家の「風森章羽」がノベライズ化!

ミステリー案内シリーズファン待望のスピンオフ!

本編はこちら!
(HM公式オンラインストアへ接続します)


ページ数:約90ページ ※文庫本ベースに算出
価格:580円(消費税込) 形式:デジタル(PDF)

販売:HMオンラインストア(デジタルコンテンツ)


プロローグ----

「ってことで、西沢さん。僕らはこれで。ありがとうございました!」
 開明寺ケンはそう言って、椅子から腰を上げた。
「ケンくん?」
 西沢は目を丸くして相手を見る。
 別府市内にあるリゾートホテル、《セントアンナ》内にあるレストラン《フィラメンツ》。
 西沢紘(こう)一(いち)が警視庁の刑事コンビと再会を果たして、まだ十五分と経っていなかった。
 少なくとも西沢的にはまったく本題に入れていないし、「ってことで」と言われてもどういうことなのか、さっぱりわからない。
「なんですか、急に? ちゃんと説明してもらえ――」
「これ、お返ししておきますね」
 西沢の言葉を遮るようにして、鼻先に写真が突きつけられる。
 昨日、西沢が地獄めぐりへ行った際に撮った写真だ。かまゆで地獄の青い色をした池を前に、笑顔の西沢自身が写っている。撮影者の腕も被写体も申し分ない、とても素晴らしい写真なのだが――
「西沢さんの言う通りでしたよ。さすが正義のルポライター。確かに『見てよかった!』ってなりました」
 西沢の意図しない形で、どうやらその写真は刑事たちに重要な発見をもたらしたらしい。しかしそうして感謝して褒められたところで、意味のわからない西沢は完全に置き去りだ。
「おい、ケンくん。ちょっと待ってください。一体どうしたんですか?」
 せめて説明ぐらいしてもらいたいのだが、「では、僕たちはこれで」とケンはまったく聞く耳を持たない。「センパイ、行きましょう」と相方を促すと、まさしく文字通りにケンはレストランを飛び出していった。
「ご協力ありがとうございました」
 一方のセンパイ刑事のほうは落ち着いていたものの、「それではまた」と軽く頭を下げて、こちらもやっぱり説明もなく立ち去ってしまう。 「ちょっと、待ってくださいよ!」
 西沢の声は、むなしくレストラン内に響いた。
 彼らは西沢に聞きたいことだけ聞いて去っていった。ご協力も何もない。
「ああ、もう。これだから国家権力は……」
 ぼやきながら西沢は、ケンから返された写真に目を落とす。
「せめて、誰と地獄めぐりに行ったんですか、ぐらい訊くもんでしょう。そうしたら……」
「そうしたら?」
「『正義のルポライター・西沢紘一の事件簿』を語って聞かせたのに」

(続く……)


※さらなる試し読み版は下記より(PDFデータがダウンロードできます)

お試し読み版はこちら!


著者:風森 章羽(かざもり しょう)プロフィール
2013年、「渦巻く回廊の鎮魂曲 霊媒探偵アーネスト」で第49回メフィスト賞を受賞。2014年、同作が講談社ノベルスより刊行され小説家デビュー。
代表作は『霊媒探偵アーネスト』シリーズ。最新作は『獏の掃除屋』(講談社より発売)

フルバージョンはこちら!